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静岡地方裁判所 昭和45年(ワ)261号 判決 1971年10月13日

原告

杉山恭子

ほか二名

被告

有限会社勝亦商店

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、

(一)  原告杉山恭子に対し金一、〇一四、四八九円およびこれに対する昭和四三年二月七日から右支払い済みまで年五分の割合による金員

(二)  原告杉山時三郎に対し金二八三、〇四六円およびうち金一六二、八二三円に対する昭和四三年二月七日から右支払い済みまで年五分の割合による金員

(三)  原告杉山和子に対し金二五七、六五〇円およびこれに対する昭和四三年二月七日から右支払い済みまで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払うこと。

二  原告らのその余の各請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を被告らの連帯負担とし、その六を原告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、各自、原告杉山恭子に対し金三、四二〇、二五三円を、原告杉山時三郎に対し金七〇〇、〇〇〇円を、原告杉山和子に対し金四〇〇、〇〇〇円を右各金員に対する昭和四三年二月七日から各支払い済みにいたるまで年五分の割合による金員を付加して支払うこと。」との判決を求め、請求の原因としてつぎのように述べた。

「一 被告勝亦強は、昭和四三年二月六日午後三時五分頃普通貨物自動車(登録番号静岡四ゆ八六一三号、以下被告車という)を運転して静岡市昭府町四七九番地先県道を進行中、右自動車の左前部付近を原告杉山恭子(当時満六才)に衝突させ、同原告に頭部外傷、顔面挫創、頬骨々折、右眼々球破裂の傷害を負わせた。

二 被告勝亦は、当時時速四〇ないし五〇キロメートル位の速度で現場付近を進行していたものであるが、前方注視義務および速度抑制等の注意義務を怠り、漫然と被告車を運転していた過失により、自宅前にいた原告恭子に気付かず、同原告が前面の道路に出ようとして自宅前を流れている約七〇センチメートル位の側溝をまたいで右道路の歩行者通行区分帯に出たのをその直前にいたつて発見したため、これを避けることができずに同原告に被告車を衝突させ、同原告を約一四メートルもはねとばして前記傷害を与えたものである。

三 被告勝亦は、金物類の販売業を主たる目的とする被告有限会社勝亦商店(以下被告会社という)の取締役である訴外勝亦良一の長男であり、自らも監査役として被告会社の業務に従事しており、当時被告会社所有の被告車を運転し、被告会社の商品を配達した帰りであつた。

四 右事故により原告らはつぎの損害を受けた。

(一)  原告杉山時三郎の財産上の損害 合計金二七二、三五三円

1  医療費 金一九二、四七四円

内訳

(1)  金一四四、六五七円

原告恭子は、右傷害のため昭和四三年二月六日から同年三月一九日までの間静岡県立中央病院に入院し、その後今日にいたるまで通院中であるが、そのうち昭和四五年一月七日までに同病院外科に支払つたもの

(2)  金四、二八八円

同病院眼科に対する昭和四三年二月七日より昭和四四年一一月七日までの分の支払

(3)  金二、四五六円

同病院に対する昭和四五年二月九日、同月二一日、同年三月一〇日および同月一二日分の支払

(4)  金二九、九三〇円

原告恭子は、静岡県立養心荘において昭和四三年三月一四日から昭和四四年一二月二五日までの間に、脳波の検査等を受けたが、その経費として右金額を支払つた。

(5)  金二〇〇円

同病院に対する昭和四五年二月四日分の支払

(6)  金九、七三〇円

京都義眼センターに対する支払金三、〇〇〇円および交通費金六、七三〇円

(7)  金九五三円

高田眼科医院に対する昭和四五年四月分支払

(8)  金二六〇円 薬代

2  休業補償費 金二〇、五七四円

原告時三郎は、訴外有限会社石川製作所に機械工として勤務し一日平均所得金二、二八六円であつたところ、原告恭子の入院中昭和四三年二月六日から同月一一日までの六日間と同年三月一九日の計七日間を中央病院に、同月一四日は養心荘に、同月一六日には京都義眼センターにそれぞれ付き添つて合計九日間の休業を止むなくされ、金二〇、五七四円を失つた。

3  交通費 金七、〇八〇円

(1)  原告恭子は、中央病院外科に三七回、同病院眼科に一六回合計五三回通院したが、原告時三郎はその間の交通費として往復バス代計金一二〇円(大人八〇円、小人四〇円)の四八回分計金五、七六〇円および値上後の往復バス代計金一八〇円(大人一二〇円、小人六〇円)の五回分計金九〇〇円を支出した。

(2)  前同様養心荘に通院した往復バス代計金六〇円(大人四〇円、小人二〇円)の七回分計金四二〇円を支出した。

4  雑費 金五二、二二五円

(1)  付添人(看護手伝い)および見舞客に対する食事費用金四、一三五円

(2)  原告和子付添中の副食費

入院中の三〇日分、一日平均一〇〇円として金三、〇〇〇円

(3)  原告恭子入院のため原告和子不在中の昭和四三年二月六日より同年三月一九日までの間、原告時三郎は勤務先の訴外石川善二方で夕食をまかなつてもらい、その間長男勝則を原告時三郎の実兄の訴外杉山清方に食事付であずかつてもらつたが、その謝礼として右石川方に金二、〇〇〇円、右杉山方に金三、〇〇〇円を支払つた。

(4)  入院中購入の被服代その他 金九、五四〇円

内訳 半丹前金七〇〇円、前あきシヤツ二枚金五〇〇円バジヤマ一枚金四五〇円、粉石鹸金五〇〇円、スリツパ金三三〇円、食器金一、〇〇〇円、ちり紙金二〇〇円、くず入れ籠金一〇〇円、電話代金五〇〇円、京都義眼センターへ行くため必要により購入した衣類代金五、〇〇〇円、ほ乳ビンおよび吸い口代金二六〇円

(5)  退院後見舞を受けた人々に対する返礼用品購入代金三二、五五〇円

(二)  原告和子の財産上の損害 金六七、九〇〇円

原告和子は、原告恭子が負傷したため、中央病院に入院中の昭和四三年二月六日から同年三月一九日までの四三日間と、同病院外科通院三三回、同病院眼科通院一六回、養心荘通院七回、義眼センターへの付き添い二日間計一〇一日間その業務を休んだ。その間の原告和子の休業補償金は、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)による保険金支給の場合の最低額(その者の所得額の証明できぬ者に適用)が一日金七〇〇円とされているので、右金額によつて合計金七〇、七〇〇円となる。

(三)  原告恭子の財産上の損害 合計金二、八三〇、〇〇〇円

1  将来の医療費 計金三三〇、〇〇〇円

原告恭子は、後記のように右眼球欠損および顔面非対称の後遺症があり、眼球については生長に伴い義眼の交換一〇回を必要とし、顔面についても整形手術を要するものと診断されており、その費用としてつぎの出捐が予想される。

(1)  義眼 金七〇、〇〇〇円

(2)  交通費(静岡、京都往復二人一〇回分) 金七〇、〇〇〇円

(3)  整形手術費 金四〇、〇〇〇円

(4)  薬代 金五〇、〇〇〇円

(5)  その他諸経費 金一〇〇、〇〇〇円

2  逸失利益 金二、五〇〇、〇〇〇円

(1)  原告恭子は、前記のような傷害を受け、今日にいたるまで前記のような入、通院による治療を続けてきたが、現在も脳波に異状が認められ、引続き通院治療を受ける必要があり、最近の症状は、(イ)右眼は眼球欠損し、視力〇で義眼を必要とする(後遺症八級該当)、(ロ)顔面は非対称となり(後遺症一二級該当)醜状甚だしく、成人後整形手術を必要とする、(ハ)したがつて、原告の後遺症は、前記(イ)の一級上位の等級、すなわち七級該当とみなされるところ、この場合の労働力の喪失率は五六%とされる(労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日労基発第五五一号参照)。

(2)  原告恭子は、事故当時六才の健康な女子で将来中学校卒業後は新制高校に進み、その卒業後は静岡市付近の事業場に勤務させる予定であつたところ、その平均余命は六九・一九年(厚生大臣官房統計調査発表の昭和四一年簡易生命表による)であるが、就労可能年数は、その範囲内において、一八才より六三才にいたる四五年間とみるのが相当である。

(3)  労働大臣官房労働統計調査部編集の賃金構造基本統計調査報告昭和四三年度統計によれば、従業員一〇人以上九九人以下の全産業の事業場における旧制中学校または新制高校卒業者のうち二〇才から二四才までの女子の全国平均月間定期給与額(きまつて支給する現金給与額)は、金二三、三〇〇円であり、平均年間賞与その他の特別給与額は金四二、七〇〇円であり、一年間の平均給与額は金三二二、三〇〇円となるところ、原告恭子は前記後遺症による労働能力喪失によつて一年につき金一八〇、四八八円の得べかりし利益を失うこととなる。

(4)  右金額および就労可能期間を基礎として、これより年五分の割合による中間利息をホフマン式計算方法によつて控除した場合の原告恭子の逸失利益の現在額はつぎのとおりとなる。

57年(63才-6才)の単利年金現価総額係数=26.595

12年(18才-6才)の前同係数=9,215

180,488円×(26,595-9,215)=3,136,881円

すなわち右金三、一三六、八八一円が原告恭子の逸失利益による損害金の額であるが、諸般の事情を考慮して、そのうち金二、五〇〇、〇〇〇円を請求する。

(5)  仮りに、右請求が何らかの理由により認められないときは右金額は慰藉料に加算されるべきである。

(四)  慰藉料

1  原告恭子分

原告恭子は、前記のように本件交通事故により四三日間の入院生活を余儀なくされ、退院後も今日にいたるまで通院治療を受けており、現在脳波に異常があつて今後も引続き治療を要するという重傷で、その間甚大なる苦痛を受けたばかりでなく、右眼球は完全に欠損して視力〇となり一生涯義眼を必要とし、したがつてその容貌は著しく損われるばかりでなく、顔面は左右非対称となり、一見してその異常性が識別されるような状況にあり女性として将来就職その他の社会生活および結婚等の場合において極めて不利な条件を甘受しなければならず、これによつて同原告が生涯にわたつて受けなければならない精神的苦痛は筆舌につくし難いものがあり、これを金銭に見積るときは、同原告が被告らに請求すべき金額は少なからぬ額にのぼるが、本件においてはとりあえず金二、〇〇〇、〇〇〇円を請求する。

2  原告時三郎および原告和子分

原告恭子は、原告時三郎、同和子夫婦の長女であつて、そのほかには長男勝則(昭和三三年七月三一日生)があるだけであり、その成長を楽しみにしてきたものであるが、本件交通事故により長女の原告恭子が前述のような傷害を受け、そのために原告時三郎は当初勤務先を欠勤してその看護に当ること九日間におよび、原告和子は入院中四三日間に亘つてその看護に専念し、退院後も通院の付き添いのほか家庭にあつて看護に尽すなど、日夜にわたり右恭子の病状回復のために献身してきたが、ついに全快するにいたらず前記のような後遺症状を残す結果となつたため、現在も毎日右眼およびその義眼の洗眼消毒を必要とし、日々の苦痛も少なからぬものがあり、また原告恭子が右のような身体的欠陥を負わされたことによつて、その将来は両親にとつて少なからぬ精神的重荷となり、今後久しきにわたつて心労の絶え間がないような状況にある。以上によつて原告時三郎および同和子の受ける精神的、肉体的苦痛は、単に金銭的賠償によつて償われうるものではないが、仮りにこれを金銭に見積るときは、その慰藉料は少くとも原告時三郎につき金三〇〇、〇〇〇円、原告和子につき金四〇〇、〇〇〇円を下らないものと思料する。

(五)  弁護士費用

原告らは、被告らに対し従来右損害賠償の支払を求めてきたが、被らはこれに応じないので、やむなく原告ら訴訟代理人弁護士平井廣吉に委任してその請求をすることにしたが、これに対し原告時三郎は静岡県弁護士会報酬規程の範囲内で手数料として金一五〇、〇〇〇円を支払い、成功報酬として勝訴額の七%を支払う旨約定したので、本訴においてはそのうち金二五〇、〇〇〇円を請求する。

五 以上を総合すると、本件交通事故による原告らの損害は、原告時三郎分計金九七二、三五三円、原告和子分計金四六七、九〇〇円、原告恭子分計金四、八三〇、〇〇〇円、合計金六、二七〇、二五三円となるところ、原告らは、自賠法による責任保険金として昭和四五年四月二二日に金一、七五〇、〇〇〇円(傷害補償金五〇〇、〇〇〇円、後遺症補償金一、二五〇、〇〇〇円)が支払われたので、原告時三郎分に金二七二、三五三円、原告和子分に金六七、九〇〇円、原告恭子分に金一、四〇九、七四七円をそれぞれ充当すると、残額は、原告時三郎分金七〇〇、〇〇〇円、原告和子分金四〇〇、〇〇〇円、原告恭子分金三、四二〇、二五三円となるので、原告らは、被告らに対し右各金額とこれに対する本件交通事故の日の翌日である昭和四三年二月七日から各支払い済みにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める。」

被告ら訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として

「一 請求の原因第一項の事実は認める。

二 同第二項の事実中、原告恭子が自宅前から前面の道路に出ようとして自宅前の溝をこえ道路に出た際、被告車に接触し前方にはねとばされたことは認めるが、その余の事実は否認する。右事故が専ら原告恭子の過失に基因するものであること後記のとおりである。

三 同第三項の事実は認める。

四 同第四項の事実中、(一)の1の(1)は認める。但し、通院実日数は二九日間で、昭和四五年一月八日以降の通院の点は不知。同(2)は認める(通院実日数二三日)。同(3)は不知。同(4)は認める。(通院実日数六日間)。同(5)ないし(8)は不知、(なお以上のうち金一、一六二、六六五円は被告らが支出したが、後に自賠法による保険金から支払を受けている)。(一)の2ないし5はいずれも不知。(二)は不知。(三)の1は不知。同2の(1)の原告恭子の傷害および入、通院の事実および(イ)、(ハ)は認めるが、その余は争う。同(2)の原告恭子の年令は認めるが、その余は争う。同(3)ないし(5)は争う。(四)の1のうち負傷、入、通院の事実のみ認め、その余は不知、慰藉料の額は争う。同2はいずれも不知、慰籍料の額は争う。(五)のうち原告らが本訴を本件原告代理人に委任したことは認めるが、その余は不知。

五 同第五項の事実中、原告らにその主張の日頃自賠法による保険金合計金一、七五〇、〇〇〇円が支払われたことは認めるがその余は争う。」と述べ、抗弁としてつぎのように述べた。

「一 本件交通事故は、専ら原告恭子の過失に基づくもので被告勝亦には運転上の過失はない。すなわち、被告勝亦は、幅員六・八メートルの本件道路を時速四〇キロメートルの速度で進行して本件現場に差しかかつた際、道路左側の自宅前(道路外の部分)で道路に背を向けて友人二人と立話中の原告恭子が、いきなり後に向きを変えざま道路左端の溝を越え、二・二メートルも被告車の進路上へ駈けこんできたもので、被告勝亦はそれを僅か六・三メートル手前で認め、急制動したが及ばず衝突したものである。被告勝亦としては、はしめ道路前方約二八メートルに原告恭子を認めたが、その時の同原告の位置は前記のとおり道路外の場所であつたから、同女が側溝を越え、道路上の左端付近の白線を越えて自車の進路上までとび出してくることは到底予測し得なかつたのである。したがつて、同被告に運転上の過失はない。

二 右のように、本件事故は原告恭子の一方的過失に基因するもので、被告らとしては被告車の運行に充分注意を尽くしていたし、被告車には構造上の欠陥もしくは機能上障害は全くなかつたから、被告会社は、自賠法第三条但書により損害賠償の責任を負わないものである。

三 仮りに、被告勝亦に何らかの過失が認められ、被告らに損害賠償責任があるものとしても、本件事故は前記のとおり原告恭子の重大な過失に因るところが大きいから、本件損害賠償額を算定するについては右過失(被告勝亦と原告恭子の過失割合は二対八と認めるのが相当である)を充分斟酌すべきものである。」

原告ら訴訟理人は、「被告らの抗弁事実は全部否認する。」と答えた。

〔証拠関係略〕

理由

一  請求の原因第一項の事実は、当事者間に争いのないところである。

二  原告らは、右交通事故は被告勝亦の過失に基因する旨主張するのに対し、被告らは、これを争い右は原告恭子の一方的過失に因つて発生した旨主張するので、この点について判断するのに、〔証拠略〕を総合すると、事故現場付近の道路は、市街地を通る幅員六・八メートルのアスフアルト舗装の平坦な直線路で、被告勝亦の進行方向道路左側端より内側五〇センチメートル位のところに歩行者区分帯を示す白線が引かれており、その外側に幅七〇センチメートル位の側溝があり、それに続いて原告らの自宅玄関があること、事故当時原告恭子(昭和三六年一二月四日生れの幼稚園児)は右自宅玄関先で男児の友達と二人で右側溝をとびこえたりしながら、どこで遊ぶか相談していたこと、被告勝亦は、時速四五キロメートル位の速度で右道路左側部分の歩行者区分白線寄りのところを進行して現場付近に差しかかり、原告恭子ら二人の子供が原告ら自宅前の右側溝付近で同原告は道路に背を向ける恰好で立話しているのをその手前約二八・七五メートルの地点で発見したこと、かような場合自動車運転者としては、一般に幼児は交通に対する判断力に劣り道路傍などから道路上に突然とび出しくるようなことがよくあるから、直ちに減速徐行してその動静に注視し、事宜に応じて警笛を吹鳴するなどして進行し、もつて衝突事故を未然に防止すべき注意義務があるのに、同被告はこれを怠り、同原告が自車の進路上にとび出してくるようなことはないものと軽信して漫然同一速度で進行した過失により、同原告が振り向きざま右側溝をとびこえて被告車の進路上に出てきたのをその直前六・三メートル位にいたつて発見し、直ちに急ブレーキをかけたが間に合わず、自車左前部フエンダー付近を同原告の右顔面付近に衝突させ、同原告を一四メートルも左前方にはねとばし前記の如き重傷を負わせたものであることを認めることができる。〔証拠略〕中、右認定とくい違う部分は、前掲各証拠に対比してみてたやすく信用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  してみると、被告勝亦は民法第七〇九条により、また被告会社は、請求の原因第三項の事実は当事者間に争いがないから、自賠法第三条、民法第七一五条により、右衝突事故による原告恭子の受傷によつて原告らの蒙つた損害を賠償する責任があるものといわなければならないが、被害者である原告恭子においても、当時幼稚園に通園しており就学年令に達していたのであるから道路交通の危険に対する事理を弁識する能力をそなえていたものというべきところ、前項に認定の事実によれば、道路わきで遊んでいて被告車の進行してくる直前においてその進路上に出た点に重大な過失の存することが認められるから、右損害賠償額の算定についてはその過失を斟酌するのが相当である。

四  そこで原告らの主張する損害額について以下に検討する。

当事者間に争いのない事実に、〔証拠略〕を総合すると、原告恭子は、右受傷により直ちに静岡市鷹匠町所在静岡県立中央病院に入院し、昭和四三年三月一九日まで右眼球摘出手術その他の治療を受け、同日退院後も現在にいたるまで時々(五四回位)同病院に通院治療を受け、この間同病院の指示により同市与一右衛門新田所在の静岡県立病院養心荘に七回、京都市所在の京都義眼センターに二回通院して診察、治療を受け、なお静岡市北安東所在の高田眼科医院にも通院治療を受けていること、および原告恭子の右入、通院による財産上の損害として

(一)  原告時三郎は、1医療費等としてその主張する如き内訳の合計金一四四、六五七円、3交通費としてその主張する如き内訳の合計金七、〇八〇円、4雑費としてその主張する如き内訳(但し、3の杉山方に対する謝礼分は一、〇〇〇円)の合計金五〇二二五円を出捐し、なお、2休業補償費として主張する如く七日間原告恭子の付添のため休業を止むなくされ金二〇、五七四円相当額以上の得べかりし利益を失い、総計金二七〇、三五三円相当の損害を受けたこと

(二)  原告和子は、事故当始原告ら一家の家事や洋裁の内職などに従事していたところ、原告恭子の右入、通院により付添のためその主張の如き日数の間右業務に従事し得なかつたため、一日当り少くとも金七〇〇円の得べかりし利益を喪失したものと認められるところ、右入院中の四三日間と義眼センター通院二日間はいずれも全日、市内通院日数の五六日間は半日としてその逸失利益を計算すると、700円×45+350円×56 なる算式により金五一、一〇〇円となるので、同額相当の損害を受けたことになること

(三)  また原告恭子は、(1)右受傷により右眼に義眼を装填することを止むなくされ、成長するに従つて二年おき位にその交換をなし、かつ、頬骨が折れているので成人に達したのちその整形手術を必要とするため、将来の医療費として少く見積つても義眼費七回分四九、〇〇〇円、交通費(京都義眼センターへの往復付添人とも七回分として)四九、〇〇〇円、整形手術料四〇、〇〇〇円、脳波テスト料六回分三〇、〇〇〇円、計金一六八、〇〇〇円の出捐が予測され、(2)事故当時満六才の健康な女子であるからその平均余命年数に徴し、溝一八才から満六三才までの四五年間稼動し、原告主張の統計により、その間継続して毎年少くとも三二二、三〇〇円の年間収益を得べかりしものと予測するのが相当であるところ、同原告は前記右眼失明および頬骨々折による顔面左右非対称によりその労働能力を一部喪失したことはみやすい道理であつて、その喪失率を三〇%とする(同原告の右身体障害が原告主張の障害等級七級該当の労働能力喪失率五六%とされることは原告主張のとおりであるが、幼時に身外障害を受けた者は特段の事情のない限りその障害の部位程度に応じて将来右障害による支障の少い職業を選択するであろうことは経験則上明らかであつて、同原告の場合も将来の就職に当つてはできるだけ眼を使わないですむ職業を選択することによりその労働能力喪失率を三〇%程度まで低め得ると推認する)、同原告は前記の稼動期間を通じて右年間収益の三〇%に当る九六、六九〇円を失つたものというべく、これをホフマン式計算法により年毎に年五分の中間利息を控除してその一時払額を算定すると、原告主張の如き算式により

96,690円×(26,595-9,215)=1,680,472円

金一、六八〇、四七二円となること

が認められるけれども、前記被害者の過失を斟酌すると、被告らの賠償すべき財産上の損害額は、その各五〇%に当る(一)原告時三郎分金一三五、一七六円、(二)原告和子分金二五、五五〇円、(三)原告恭子分金九二四、二三六円と定めるのが相当である。

つぎに、原告恭子は、本件交通事故により長期間にわたる入通院治療を要する重傷を受け、その間甚大なる肉体的苦痛を受けたばかりでなく、右眼球欠損して生涯義眼を必要とし、容貌が著しく損われ、顔面は左右非対称となり、女性として将来就職その他の社会生活および結婚等の場合において極めて不利な条件を甘受しなければならず、これによつて同原告が生涯にわたつて受けなければならない精神的肉体的苦痛は筆舌に尽し難いものがあると認められ、これを慰藉せしめるには、前記被害者の過失その他一切の事情を考慮に入れて金一、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。また原告時三郎、同和子が両親として原告恭子の本件受傷による入、通院治療のため日夜にわたりその病状回復のために献身してきたが、前記の如き右眼球欠損等の重大な後遺症を残す結果となつたため、現在も毎日右眼窩および義眼の洗浄消毒を必要とする日々の苦痛も少からぬものがあり、加えて右のような身体的欠陥を負わされた原告恭子の将来は両親にとつても重大な精神的重荷となり、今後久しきにわたつて心労の種となるであろうことは容易に推測され、右原告時三郎、同和子の精神的、肉体的苦痛は、本件事故によつて原告恭子の生命が侵害された場合のそれに比しても著しく劣るものではないものといい得るから、同原告らも固有の慰藉料請求権を有するものと認むべく、その額は、前記被害者の過失その他一切の事情を考慮に入れて各金三〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

五  以上の次第で、被告らの原告らに対する損害賠償額は、(一)原告時三郎分が金四三五、一七六円、(二)原告和子分が金三二五、五五〇円、(三)原告恭子分が金二、四二四、二三六円となるところ、原告らは自賠法による責任保険金として金一、七五〇、〇〇〇円を受領し、これを原告時三郎分に金二七二、三五三円、原告和子分に金六七、九〇〇円、原告恭子分に金一、四〇九、七四七円とそれぞれ充当する旨自陳するので、その残額は、(一)原告時三郎分が金一六二、八二三円、(二)原告和子分が金二五七、六五〇円、(三)原告恭子分が金一、〇一四、四八九円となる。

なお、原告本人時三郎尋問の結果によれば、同原告は、被告らが原告らに対しその蒙つた損害額を賠償しないため、弁護士平井廣吉に本訴の提起と追行を委任し、手数料として金一五〇、〇〇〇円を支払い、成功報酬として勝訴額の七%(一〇〇、四四七円となる)を支払うことを約するの止むなきにいたらしめられていることが認められるが、前記被害者の過失を斟酌すると、その五〇%に当る金一二〇、二二三円(手数料分七〇、〇〇〇円、成功報酬分五〇、二二三円)を被告らに賠償させるのが相当である。

六  よつて、原告らの被告らに対する本訴請求は、原告時三郎において金二八三、〇四六円および弁護士費用を控除したうち金一六二、八二三円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和四三年二月七日から右支払い済みにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告和子において金二五七、六五〇円およびこれに対する前同割合による遅延損害金の、原告恭子において金一、〇一四、四八九円およびこれに対する前同割合による遅延損害金の各支払を求める限度において正当としてこれを認容すべく、その余は理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋久雄)

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